前回に引き続き、美容医療について調べてみました。
今回は、「高密度焦点式超音波治療(High‐Intensity Focused Ultrasound：HIFU)」についてです。
まず、HIFUは固形の良性および悪性腫瘍を治療するツールとして研究・開発された治療機器です。
特定の焦点領域に熱エネルギーを発生させ、がんを死滅させます。
合併症に関して、例を挙げると、前立腺癌においては、尿道狭窄、精巣上体炎、一時的尿失禁、尿道直腸瘻、性機能障害(勃起障害=ED)といったリスクがあります。
特定の焦点領域に熱エネルギーを発生させるという性能が、美容医療に応用されて、皮下脂肪と筋肉の境目にある「表在性筋膜(SMAS)」をピンポイントで引き締めることで「しわ・たるみ」を安全に改善するとされています。
美容医療診療指針を引用すると、「しわ・たるみ」に対するHIFUは、「効果は外科手術や注入剤を用いた治療に及ばないが、瘢痕形成は稀で、体内に異物を残さないため、合併症の危険性が低く、治療の選択肢の 1 つとして行うことを弱く推奨できる」と記載されています。
※「しわ・たるみ」に対して、強く推奨されている治療は、「ヒアルロン酸とボツリヌス菌毒素製剤」のみですが、「ヒアルロン酸」は重篤な合併症の報告があります。
以降は、「Aşiran Serdar Z et al. Efficacy of high-intensity focused ultrasound in facial and neck rejuvenation. J Cosmet Dermatol. 2020 Feb;19(2):353-358」をの論文をもとに、参照文献を孫引きしながら調べております。
下図に簡単に論文概要をまとめました。
この論文は、顔面と頚部にHIFUを施行して、どれだけ効果があったか、どれだけ安全であったかを評価しています。
結論は「効果・安全性ともに、過去の文献と比較しても、同様に良好だった」です。
ここからはツッコミどころ満載なので、個人的な見解です。
①統計学的に問題がある
「方法」で2014-17年にかけてHIFUを施行した患者が記載されていますが、除外基準が設けられています。
基本的には、総患者数からどのくらい除外されたか記載する必要があります。
そうでないと、自分に都合が良い結果の患者だけが、選択されている可能性が残ることになります。
②評価方法がいづれも主観的である
「評価」が数値で客観的に示されずに、医師・患者の主観的な評価のみだと言うことです。
しかも、患者の満足度は、場合によっては、医師が直接電話で確認しています。
※気を使って、「良い」って言いそうですよね。そういう疑いが生まれる時点で怪しいです。
③参考文献が全く関係ない
これはしっかり読まないと分かりませんが、何かの間違いでしょうか！？
HIFUに関する過去の文献では、
「医師による臨床的改善の程度」：58.1 - 91%
「患者の満足度」：65.6 - 90%
とされています。
※信じるか信じないかは、あなた次第です。
最も報告が多い合併症は「疼痛」で、次いで、「紅斑」です。これらは、いづれも自然軽快しているようです。
重篤な合併症である神経学的合併症はほとんど報告されていないと記載されていますが、全くないと言うわけではないようです。
神経損傷の正確なメカニズムは不明ですが、HIFUの深い浸透と熱エネルギーによって生じるSMASの収縮が、神経枝の損傷につながる可能性がありそうとのこと。
※神経枝の損傷は外科的な手術では、一般的に起こり得る合併症です。顔面では特に気になるのではないかと思います。
また、参考文献に「焦束超音波(IFUS)の安全性と有効性を評価」しているものがありました。
この中で、患者の皮膚サンプルを用いて、IFUSによって皮下のコラーゲンがどれだけ増生したかを病理学的に評価していました。
客観的な評価になる可能性があったので期待しましたが、染色方法や評価法が適切ではなく、治療によってコラーゲンが増生したことを証明できていませんでした。
最後になりますが、美容医療関連の論文は「美しさ」を評価しなければならないので、客観的な数値での評価は困難だと思います。
そういった意味で「しょうがない」のかもしれませんが、だからと言って、自信を持って「大丈夫」と言う医師は信用できません。
また、長期成績を評価した文献がないため、今後どのような副作用が出るかは誰にも分かりません。十分に説明を受けましょう。
ご意見・ご感想や間違いのご指摘をお待ちしております。
また、おすすめの美容関係の論文もご紹介頂けたら嬉しいです。
おしまい
