闇医者Blog

闇医者です。界隈の言えないこととか書いてます。

白玉注射の効果と嘘

昨今、ヒルドイドの自己負担額増が話題になっていますね。

正直、やっとかといった感じです。

そのお話はまた今度にするとして、今回は、「白玉注射」に関するお話です。

最後に残酷な真実も。。

 

以降は、「松本ら, グルタチオンのメラニン合成阻害機構」「Jeon G, Kim C, Cho UM, et al. Melanin-Decolorizing Activity of Antioxidant Enzymes, Glutathione Peroxidase, Thiol Peroxidase, and Catalase. Mol Biotechnol. 2021 Feb;63(2):150-155」を元に参考文献を孫引しながら調べていおります。

 

下記の文章は、美容クリニックにテンプレートとして記載されている内容です。

『白玉注射の主成分である「グルタチオン」とは、もともと体内に備わっている成分です。体のサビを取ってくれるといわれ、シミや肝斑を改善したりアンチエイジング効果を得られたりするとして注目されています』

果たして、真実なのでしょうか?

 

グルタチオンとは?

グルタチオンは、グルタミン酸システイングリシンからなるアミノ酸の一種で人間を含む動植物や微生物の組織内に存在する物質です。

過去の報告では、生体内の有害物質の解毒や過酸化物の生成を抑制することが示されています。

過酸化物は、紫外線により発生する活性酸素(酸化ストレス)と同義だとすると、皮膚の老化現象とも関連します。

シミの原因であるメラニンは、これらの活性酸素種によって生成が促進されるため、原因物質の減少はシミ予防には効果的と考えます。

※シミに関しては、以前の投稿を参照されて下さい↓

yamiishasan.hatenablog.com

また、クリニックの使用する「グルタチオン」は「還元型グルタチオン(GSH)」です。

「還元型グルタチオン」はグルタチオンペルオキシターゼ(GPx)という酵素を介して「酸化型グルタチオン(GSSG)」へ変化しますが、その際に、メラニン生合成の原因である活性酸素(酸化ストレス)を消費します。

上記の反応は「酸化還元反応」といい、その反応によってもシミを予防することが期待されます。

グルタチオンの酸化還元反応

グルタチオンのメラニン合成阻害効果

まず初めに、覚えておくべきメラニン合成の流れを示します。

チロシンを原料にチロシナーゼを介して、L-DOPA→DOPAキノン→メラニン合成が行われます。下図を参照して下さい。

メラニン合成

今回、ご紹介する論文は、「チロシナーゼ+L-DOPA混合溶液」からメラニンが合成される機序を利用しております。

この「混合溶液」に「グルタチオン」を添加することで、メラニン発現量の変化を評価しています。

以下が結果の一部になります。

グルタチオン濃度依存性にメラニン合成を阻害しております。

メラニン合成阻害

結果としては、グルタチオン自体にメラニン合成阻害効果が示唆されましたが、その詳細な機序は明らかにはなっていません。

 

グルタチオンペルオキシダーゼ(Gpx)のメラニン脱色効果

続いての論文は、前述した酸化還元反応を促す酵素「グルタチオンペルオキシターゼ(GPx)」メラニンを分解する効果があるか検討したものです。

この酵素活性酸素を消費することで効果を発揮することから、メラニン溶液に「過酸化水素水(H2O2)=活性酸素」と「GPx」を添加してメラニンの減少量を評価しています。

以下が結果の一部になります。

ある濃度ではメラニン脱色効果が非常に高くなっています。

GPxのメラニン脱色効果

人体への影響を考慮して、悪性黒色腫細胞を用いて、安全性も評価しております。

※黒色腫(メラノーマ):皮膚がんの一種です。

H2O2とGPxの安全性

この論文の注意点は、活性酸素がないとGPxは反応しないという点です。

したがって、体外から活性酸素を取り込むなどしないとメラニンを分解することができません。

H2O2自体にメラニン脱色効果が認められることから、この研究はH2O2+GPxの外用剤(塗り薬)を想定していたのかなと思います。

実際に、人体に試みた臨床研究はあったようですが、理由不明で中止になっています。

 

ここからは個人的な見解です。

グルタチオンにメラニン合成阻害効果があるのは間違いなさそうです。

ヒトを用いた臨床研究もあり、グルタチオン外用+内服で効果があったと結論付けられています。

しかしながら、あくまでシミの予防効果なので、現存のシミに関しては、レーザー治療などが検討されると考えます。

 

最後に、残酷な真実なのですが、上記論文でメラニン合成阻害効果が最大であるモル濃度は0.8mMでした。

人体(60kg)で計算すると、グルタチオンは約15g必要です。

ちなみに、0.4mMでは、約7.5gです。

元々が「妊娠悪阻」など妊婦にも使用していた薬剤であるため、比較的安全性は担保されているのですが、使用量は1日最大200mgです。

したがって、許容を遥かに超える容量であることは自覚して、治療を受けて下さい。

 

ご意見、ご感想や間違いのご指摘をお待ちしております。

yamiishasan.hatenablog.com

yamiishasan.hatenablog.com

おしまい。