闇医者Blog

闇医者です。界隈の言えないこととか書いてます。

精神障害と犯罪の因果関係について考える①

最近、知り合いの検察官と話す機会があり、精神障害の方の万引きなどを抱えていて、それが増えていると聞きました。

普通に生きていれば巡り合わないような話題だったので調べてみました。

 

精神障害への偏見が助長されることを危惧しておりますので、あくまでも広い視野で物事を考えるきっかけになればと思います。

 

今回は、精神障害の関しては、「Jauhar S, Johnstone M, McKenna PJ. Schizophrenia. Lancet. 2022 Jan 29;399(10323):473-486」を参考にしましたが、法曹界関係の論文は筆者の傾向もあるので、いくつかを参考にして、なるべく思考が偏らないようにしました。

統計関連に関しては、各年の犯罪白書を参照しております。

 

 

日本では、刑法犯全体に占める精神障害者の比率を見ると、1%以下で推移しています。(直近の令和3.4年は0.7%)

しかしながら、殺人や放火に限って言えば、殺人:6-7%、放火:10-15%と高い比率になっています。

したがって、精神障害による犯罪は多いのか?と聞かれれば、「どのような犯罪か特定しなければ、答えられない」ということになります。

下図は令和3年犯罪白書の抜粋になります。

※ついでに、刑法犯の年齢比率を添付しておりますが、高齢者の比率はどう考えても増加傾向ですね。

令和3年 犯罪白書(抜粋)

 

現場で遭遇する精神障害の事例です。

 

統合失調症

人類が100人に1人の割合でかかる頻度の高い病気のため、精神科医が治療することが一番多い精神疾患です。

精神鑑定や司法精神医療の現場でも統合失調症の方に遭遇することが多いとのこと。

さらに、失業率は、海外では70〜90%であり、食生活の乱れ、体重増加、喫煙、薬物の併用のすべてが、平均余命を13~15年縮める要因となっています。

また、最も信頼性の高い推定では、自殺率は約5%です。

このようなことから、統合失調症は早期に治療すべき疾患だと考えられています。

 

発症した人の73%に明確な定義のない前駆症状が報告されており、特徴的な所見は、「陽性症状(幻覚・妄想)」と「陰性症状」に分けられます。

「陽性症状」

 幻覚:実態がなく他人には認識できないが、本人には感じ取れる感覚のこと。

 妄想:明らかに誤った内容を信じてしまい、周りが訂正しようとしても受け入れられない考えのこと。(被害妄想、関係妄想)

陰性症状

 意欲低下、感情表現の減少、日常生活の困難(対人関係・身の回りの管理)など

 

これらの症状に加えて、「興奮状態」「身体・思考の停止を伴う昏迷状態」、さらに、それらが交互に繰り返される「緊張病」の症状に影響されて、暴力的な犯罪が起こることがあるとのことです。

また、「認知機能障害」は現在、さらなる臨床的特徴として認識されており、側脳室拡大と約2%の脳容積減少は確立された所見とされています。

 

なぜ、精神障害によって犯罪が起こるのか?(精神障害と犯罪─ 司法精神医療の現場から引用)

精神障害の症状悪化は、本人だけでなく周りの人間も気づけない、あるいは、分からないことがあります。

したがって、診断されていない人はもちろん、治療を受けていても「病識」がなく、孤立してしまい、適切な支援を受けれていない可能性があります。また、支援を求める行動はよりハードルが高いかもしれません。

こうした様々な要因が重なることで、「不幸にして精神障害になった人が、さらに不幸にして犯罪行為を起こしてしまう」

 

 

ここからは個人的な見解です。

 

今回は門外漢な分野、かつ、調べてみるとかなり内容が濃かったので、いくつに分けたいと思います。

今後は、その他の精神障害(うつ病・知的障害)の特徴に加えて、刑事責任能力や処遇に関して、記述したいと思います。

 

 

「不幸にして精神障害になった人が、さらに不幸にして犯罪行為を起こしてしまう」

この言葉に深く感銘しました。

有病率が100人に1人は身内や知り合いにいてもおかしくないレベルですよね。実際に、最近ではメンタルを崩して、医療現場から離れる方が一定数います。

皆さんの職場はどうですか?

皆さんは気づいて、手助けすることはできますか?

義務教育の時から、性教育に加えて、精神障害に関する教育も必要だと思いました。

 

長年に渡り、外来業務に従事していると、正直に言って、「この人は精神障害がありそう」と思う患者さんが来ることがあります。

もちろん、初診時には「これはメンタルです」なんてことは、まず言いません。(適切な治療をしていないのに決めつけるのは非科学的だと考えるからです)

しかしながら、自身の知識・経験を最大限に活用して、かつ、疾患に対する「教育」を行っても改善しない場合は、心療内科に相談していただく場合があります。

※幸にして、その頃には信頼関係が築けているので、比較的スムーズに紹介ができています。

 

有病率が100人に1人なので2日外来すれば遭遇する計算なので、私の感覚からすれば、見逃しているレベルです。

 

ご意見・ご感想や間違いのご指摘をお待ちしております。

おしまい